『艶葉樹(つやばき)』 片岡鶴太郎展に行ってきました
片岡鶴太郎さんの絵は、むかしからとても好きだった。
鮮やかな何色もの組み合わせの中に、しかし一本のテーマというか芯を感じたり。
逆に、シンプルな構図の中から無限な可能性と広がりを感じたり。
ひとたび鶴太郎さんの絵の前に行くと、私の中で物語がふくらみだす。
平面のはずであるが絵を見ていると、幾重にも広がる奥行きを感じたり、ともすれば音やにおい、質感までを想起される。五感が、刺激される。
そして何より、あたたかい。
そういうところが、私はとても好きだ。
今回の、椿の展覧会で、感じたこと。
いつも鶴太郎さんがモチーフにしているお魚やお野菜や、そういう絵もたくさんあったけど、全体的にすごくやわらかい絵になったと感じた。線が、色が、額の中にいるそのものの存在の仕方が。おや、ちょっと、作風が変わったのかな?と。
そしてお花。今回は、椿がテーマとあってお花の絵も多かった。ふんわりやわらかく、手のひらで包み込んだような色合い。
しかし、そこから発されるエナジーは、変な言い方かもしれないけど非常にセクシーだった。
「艶っぽ」かった。
印象的だったのは、黒。
鶴太郎さんの絵といえば様々な色を取り入れた独特のグラデーション。
自然で心地の良い色どりの移り変わりが目に鮮やかで素晴らしいと思う。
今日だって、そう感じた。
けれども、今日は、そよ風を感じさせるようなカラフルな色彩よりも、何種類にも塗り分けられた墨のような「黒」が、心に沁みた。
そして、椿の紅と葉の墨が、どちらがいなくても絶対だめ、という絶妙なバランスで額縁から零れ落ちんばかりの勢いで、咲き乱れていたあの大きな絵を見た瞬間、ため息が出た。
男女に見えたのかもしれない。
相いれないくせに、互いを必須とする関係性をそこから見出したからなのかもしれない。
だからセクシーに見えたのか。
せっかくだからと最後にいただいたパンフレットにこんな文章が。
椿に寄せた鶴太郎さんの想いを綴った、この文章を読んで、全てがとても腑に落ちた。
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艶葉樹 (つやばき)
17年前の早春 如月 朝 5時
自宅の玄関を出て車に乗り込もうとした その時 背後に何か気配を感じ
無意識に振り返る無防備な眼に 真っ直ぐに 吸い寄せられた 紅い 一重の横顔
椿との出逢いであった
その日から 椿に恋い焦がれ
椿を描ける人に成りたいと全身で想った
絵を描ける人に成りたいと思った 椿の音色を告白できる人に成りたいと願った
椿を描ける人に成れたら どれ程 幸せなのか 想うだけで鼓動が上がった
何故 これ程までに 焦がれるのか それを聞きたくて描いているのかもしれない
椿 椿 椿
椿を描けば 葉が意地らしく 頬笑む
可愛く 描いてあげてね と目で念を押す
椿と 寄り添う葉
この二人の関係は一角のもの
熱く光沢のある葉は 椿花を守る 蕾を雪から守るべく 傘になり 積もった雪を滑り落とす
葉が無ければ 蕾は雪焼けして 花には成れない
美しく咲かすのが 葉の幸せなのか
艶のある 葉っぱ の樹
その昔 つばき は艶葉樹 と呼ばれた
片岡鶴太郎
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セクシーさを醸し出していたのは、その椿と葉との関係であり、と同時に椿に恋する片岡鶴太郎さんの目線であったとは!
すごいなあ。素晴らしいなあ、いくつになっても輝いているなあ。
躍動感を持ち続けるヒトの美しさと、そういうヒトの深みに寄り添うセクシーさとに、私はちょっとくらっときてしまった。
また一段と、好きになりそうである。
最後に、大学ノートがポンと置いてあって「ご自由に感想をどうぞ」 とか書いてあったんだけど、さすがに『一段とセクシーでたまりませんでした』とは書けず、こうやって日記につづるに至ったわけである。
by desreelove
| 2010-04-19 21:39
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