日々

『ヴィヨンの妻』

久々に映画館に。


非常に良かった。

抱きしめたくなるような作品。

今、この歳でみたのがよかったのかもしれない。

おそらく、10年前とか、いや、5年前でも、よくわからなかったと思う。

なんだか、どきりとする、けれども心にしみる映画だった。

映画の見方が変わってきたんだと、最近思う。

映画というか、物の見方が変わったのだろうか。




私ももう少し若かったら、会場にいた女の子たちや映画のレビューに
書き込んだ人たちのように、太宰治が自画像のように描いた「大谷」を
単なるダメ男、という風に捉えていたのかもしれない。
ああいう男って、ほんと、むかつく~、どうしようもないよね、以上!
って。

だらしないなあとは思ったけど、いやな男、とは思わなかった。
魅力的、とも思わなかったけど、自分自身が大谷の嫁であれば、、、
やはり彼でないとだめだろうなと思った。
(おや、これは魅力的ということか?)

どんなに若くて誠実な青年や、金と名誉を持つやり手の弁護士や
そんな人たちに熱く迫られたって、大谷じゃなきゃだめなんだ。
大谷にとっても、さちでなきゃだめ。
それを心のどこかで、互いがそれぞれのやり方ではあったとしても
理解している。
どちらかというともう、ご縁というより、業とか、そういうタチ(性質)って
感じの方が近い気がする。

ああいう風に描かれると大谷は本当に不誠実な人に見える。
けど、生きづらくてどうしようもないけど、ドウシヨウモナイことから
逃げようとしても逃げられず不器用ながらも向き合おうとする大谷の
方が、よっぽどそこらへんで適当につじつま合わせながら生きている
人たちよりも誠実なのかもしれない。
いや、まあ表面的な単純な男女の関係という点では、限りなく不誠実
だけれども。誰にも理解できないがそれでも大谷は必死に、自分の
気持ちと現実に整合性をつけようとしているかのように見えた。
しかもまあ、さちもまた、突っ込みどころのないくらい付け入る隙を
与えない女、というわけでもない。
程度の差こそあれ、そこそこ、お互い様、ってとこもある。


妻のさちに、男の影があるのではないかと疑いをかける大谷は、なぜ
そんなことを疑うのかと聞くさちに

「妄想なんですよ」

そういった。
しかも、さち本人に。
すごい人だと思った。

そうなのよ、恋愛、いや他人との関係性なんて究極的には妄想なんです。
だって、自分じゃないから、「こうだろうか。」とか、「こうあってほしいな」とか
って想像はできても、ホントの本当のところは絶対に本人以外の人間には
わからない。
だから、妄想するしかない。
そして妄想が膨らみまくって、行動にうつしちゃうところとかホント、、、
正直っていうか、思うままに生きているんだろうな。

ちなみに酒を飲みながらぶつぶつねちねちと言ってくる。
こういうところは軽度うざい。
しかし、鋭い!
やっぱよく見てるね、妻を。
って、さちも思ってるんだろうな。
外に放たれて遊び呆けていると思いきや、やきもちをやいてみちゃったりして
やっぱり私が好きなのね、的な。


死のうにも死ねず、生きようにも生きづらい、
彼の中でこの世を生き抜くには、ああやって酒を飲み女に温めてもらい、気の
赴くままに(周りからはそう見える)行動をとるしかないのかもしれない。
本人にとっては、一生懸命なんだろうけれども。
ヒトを傷つけているという自覚はあまりないだろう。
だって、本人が、誰より、傷ついているから、それどころじゃないんだろう。

ここで、大谷を許容する発言をしてしまっていることに気付いて、やや微妙だと
思った。
浮気を全般的に許容しているわけでは決してないデス。
いや、そりゃ、現実的にあんな、妻子をほっぽりっぱなしで飲んだくれて、他の
女と何度も心中されたりとかほんと、オイオイオイオイ!勘弁してよ。
と思うけど、でも。
万引きしたさちを救ったその時も、苦しい日々を生きる今も、大谷のまっすぐな
所は何も変わらない。
そこが見えちゃうと、なんだかもう。
そう、「生きているだけで、いいじゃない。」
この人が、どんなにへべれけでも、何があっても、死なないでいてくれたら
いいじゃない。
になるなあ。



…自分の中で印象的だった大谷のセリフ。

『仕事なんてものは、なんでもないんです。傑作も駄作もありやしません。人が
いいと言えば、よくなるし、悪いと言えば、悪くなるんです。ちょうど吐くいきと、
引くいきみたいなものなんです。』
自己の表出を文章という形で世に残し、誰かを感動させたりすることができる
偉大な作家であったにもかかわらず、彼が生きていくうえでその名誉は、何の
エネルギー源にもならないちっぽけなことだったというふうに認識していたんだ。

彼はもっと大きな、何か業のような彼を取り巻く世界に飲み込まれまいと必死に
生きづらさを嘆きながらも死ぬこともできない苦しさと、真剣に向き合っていたの
だろうか。
ふわりと彼を包み込んであげたいと思う女性の気持ちが、少しわかった。

…あ。
これはダメ男を放っておけないがために苦しみにハマっていく恋愛パターン…
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by desreelove | 2009-10-26 17:48 | 本、映画、絵画、音

2012年4月よりカナダトロントに住んでいます。
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